報告レポート「新型コロナ禍等における位置情報を含む個人情報の取扱いについて」

自治体分科会は「新型コロナ禍等における位置情報を含む個人情報の取扱いについて」と題して、公益財団法人新潟県保健衛生センター統括医監・健診科医長鈴木翼氏と東京都港区総務部情報政策課個人情報保護・情報公開担当係長兼港区みなと保健所保健予防課保健予防副係長日野麻美氏をお迎えして、非日常的事象において個人に関する位置情報はどこまで収集、提供できるのかについて法令根拠等をお示しいただきながら、新型コロナ禍におけるそれぞれの取り組みについて話題提供をいただきました。

鈴木氏は、これまでの感染症対策では地図の利用はそれほど定着していなかったことや、新型コロナ禍において自治体の公表情報の定義がまちまちで、また各自治体の個人情報保護条例においては、感染症での個人情報利用は規定されていないことが紹介されました。

さらに、地図の描き方によっては、風評被害を拡大させる危険性も指摘されました。

日野氏は、新型コロナの発生に関して、厚労省通達で感染者が居住する市町村名の公表が禁止されていることや、多くの自治体がこの通達を守らなかったことが紹介されました。また感染者に対する医療費公費負担事務ではマイナンバーや住民基本台帳ネットワークを利用出来るが、公費負担以外の感染症対策の中で、利用できないはずの住民基本台帳情報を照会している担当者がいるという違法な運用の危険性も指摘されました。一方で接触確認アプリcocoaについては、PLR(Personal Life Repository)という、自分の意志で自分の情報を管理、発信できる仕組みであることが紹介されました。また鈴木氏の指摘と同様に、無症状保菌者やオンライン受診の増加によって医療機関が発生届に記載する発症日や所在地等の内容に揺らぎあることが紹介されました。今後、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)に集積された個人情報を含む多くの情報が、可視化、匿名加工されて国民に公開されるとの紹介もあり、地図化やAIを使った個人特定の可能性について、しっかりと注視していく必要性が示唆されました。

パネルディスカッションでは、オーガナイザーが2名に感染症対策における位置情報の取扱いについて意見を求めました。

公衆衛生の立場では、感染場所や感染者の行動を追うことで感染症の広がりを把握したいいが、一方で多くの住民が感染者の居所情報を求めてくる。個人の位置情報は感染対策のために限られた環境でのアクセスされるほうがよい。同じ場所で何度も感染が発生しておれば、位置に紐づく感染要因が見つけられるが、これまでの感染症で、例えばはしかや風疹でここまで個人情報がさらされたことはなかった。情報密度の視点では、都内ではメッシュ化されても個人特定にならないが、地方ですぐに個人が特定されてしまう。都市と地方では個人情報に関する住民の感覚に違いがある。自治体として住民の不安を抑制した情報管理が必要ではないか。また今の日本の倫理観ではデータが人を不幸にしてしまう可能性があることの示唆をいただきました。

最後に分科会代表の小泉から、自分の情報は自分の意志でコントロールできること、自治体の発信する情報が人を不幸にしてはいけないこと、個人情報に関する倫理についてはデータの使い方とともに教育していく必要があること、さらに自治体による法令違反を監査監視する仕組みが必要であることが示されました。